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作品展に寄せて #03

園長日記

 子どもたちの作品を見ていると、こんなエピソードを思い出します。
 13年前の東北大震災後、あるジャーナリストが被災者の方に、
「何が欲しいですか。」と尋ねました。
すると一人目は、
「水が欲しい。」と答え、
二人目は「食料が欲しい。」と答えました。
そして、三人目は、
「歌が欲しい。
 私たちは人間らしく生きたいのです。」
という答えが返ってきたそうです。
 音楽や絵画といった芸術は、私たちが人らしく生きていくための喜びを与えてくる素晴らしい営みなのです。

 例えば正倉院展。今年で76回目となった正倉院展は、昭和21年(1946)に初めて開催されましたが、それは『第1回正倉院展』ではありませんでした。もともと正倉院宝物は一般公開されておらず、戦争の災禍を恐れ避難させていた宝物を、戦後再び元の正倉院に戻す際、
「せっかくだから、ぜひ一般にも公開してほしい。」という強い世論に後押しされて企画された「後にも先にもこの1回限りの公開」のはずだったのです。

 しかし戦後の食糧難に苦しみ、交通事情が悪い中、22日間という短い開催期間にも関わらず15万人もの人々が訪れれました。正倉院宝物は、苦しい生活の中で復興を目指す人々にとっては、日本人としての誇りと自信、明日への希望を与えるものだったのです。
 こうしたことから、正倉院展は翌年からも毎年開催されることとなり、これまで延べ1,000万人近い入館者数を記録し、世界一入場者数の多い展覧会となったのです。

 正倉院宝物は、大仏様を建立された聖武天皇が亡くなられた四十九日にあたる756年6月21日に妻である光明皇后が聖武天皇の遺品を東大寺に献納したのがその始まりです。ですから、宝物の品々は、実際に聖武天皇が使われていたものであったり、大切にされていたりしたものばかりです。

 こうした正倉院宝物と子どもたちの作品を比べて論じることはできませんが、作品展に並べられた作品それぞれには、子どもたちの思いがこもっています。日々の活動の中から生まれた作品や運動会・見学の感動を描いた絵画はもちろんのこと、玉ねぎの皮を使った染め物には、それを首に巻いて踊ったジェシカオリンピックのオープニングや頭につけて調理した親子デイキャンプの思い出も詰まっています。そうした作品に込められた一つ一つの思い出は子どもたちにとっての大切な「宝物」なのです。
 作品展では、ぜひそうした一人ひとりのお子様が作品に込めた思いやエピソードもいっしょにご鑑賞ください。

作品展会場 準備中

11月30日は、よろしくお願いします。